脱炭素を目指す中小企業向け。2024年改訂の「中小企業版SBT」とは?
脱炭素経営を目指す企業がぞくぞくと参加しているSBT(Science Based Targets)。SBTは、パリ協定が求める水準と整合した、企業が設定する温室効果ガス排出削減目標のことです。WWFをはじめとするNGO等により設立された世界的イニシアティブで、世界的にもひろがりをみせています。なかでも日本では、2024年3月1日時点でSBT認定を取得済みの企業が904社、2年以内に認定取得を宣言しているコミット中の企業も合わせると988社と、イギリスと並ぶトップ数で、日本が世界をリードする形となっています。
どのような企業が取得しているのかなと一覧を見てみると、いち個人でもよく知る企業名がずらり。東証プライム上場企業が名を連ねていました。「やっぱり大企業じゃないと参加はむずかしいのか」と思った中小企業のご担当者さまは、ぜひ今回の記事をお読みください。通常SBTよりハードルの低い「中小企業向けSBT」について解説します。
まずは通常SBTについて、ざっくり知ろう
SBTのイメージ
1.5℃水準の削減目標:企業は毎年4.2%以上の温室効果ガス排出量の削減を目安に5〜10年先の目標を設定する
わかりづらいので、環境省の「SBT詳細資料(2024年3月1日更新版)」からお借りした図を見ながらどうぞ。
SBTが削減対象とする排出量
SBTでは、事業者自らの排出量だけでなく、事業活動に関係するあらゆる排出を合計した排出量「サプライチェーン排出量」の削減が求められます。
サプライチェーン排出量は「Scope1排出量、Scope2排出量、Scope3排出量」に分別され、「Scope1排出量」は事業者自らの直接排出、「Scope2排出量」は他社から供給された電気などの使用に伴った間接排出、「Scope3排出量」はScope1、Scope2以外の間接排出を指します。
同じく環境省の資料からお借りした図を参照ください。あまり聞き慣れない上流・下流のワードは、自社を中心に事業のための“購入”に関する排出を上流、“販売”に関する排出を下流と理解してみるとわかりやすかったです。
Scope1、Scope2は自社努力で可能ですが、Scope3は他社にも協力を求める必要があります。またScope3の排出量の算定はScope1、Scope2に比べてルールが複雑で難しく、データ収集だけでも多くの労力やコストがかかることがすぐに予想できます。これでは体力のある大企業ばかりが多く参加しているのもうなずけます。では、脱炭素を目指す中小企業にとって「中小企業向けSBT」は最適解となるのでしょうか?
「中小企業向けSBT」は通常版とどう違う?
中小企業向けSBTと通常SBTその違いを大きく3つあげました。
1.削減対象範囲がScope1とScope2に限定されている
2.認定費用が安い
3.承認までのプロセスが簡略化されている
最も懸念していた削減対象範囲からScope3が外れているのが何よりうれしいですね。認証までの金銭的にも、時間的にも負担が少なくなっています。通常SBTよりも、随分と取り組みやすくなっていると言えるのではないでしょうか。
ちなみに、対象となる企業は以下の要件を満たす必要がありますので、ご注意ください。
【必須条件(下記5項目すべて満たす必要あり)】
1.Scope1とロケーション基準のScope2の排出量合計が10,000 tCO₂e未満であること
2.海運船舶を所有または支配していないこと
3.再エネ以外の発電資産を所有または支配していないこと
4.金融機関セクターまたは石油・ガスセクターに分類されていないこと
5.親会社の事業が、通常版のSBTに該当しないこと
【追加要件(必須要件に加えて以下4項目のうち2項目以上を満たす必要あり)】
1.従業員が250人未満であること(※1)
2.売上高が5,000万ユーロ未満であること(※2)
3.総資産が2,500万ユーロ未満であること(※2)
4.森林、土地および農業(FLAG)セクターに分類されないこと
※1:組織が雇用する全ての従業員数。パートタイマーの従業員を含む ※2:申請を行う事業者が、新たな要件に準拠しているかの確認を行うために、収益と資産額を確認できる財務諸表の提出が必要
中小企業向けSBTは取り組むメリットも大きい
脱炭素経営に取り組む姿勢をアピールするには、こうした認証を利用することが有用です。顧客に「環境に配慮した先進的な企業」として認識してもらえるだけでなく、脱炭素に取り組む企業から積極的に取引先として選ばれる可能性も。これからの企業戦略として、積極的に参加を検討してみてはいかがでしょうか。
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